羊かぶり☆ベイベー
「あの……カウンセリングをお願いしたいんです。でも、少し迷っていることもあって……」
『迷っているんですね。それは、どのようなことですか?』
「カウンセリングしていただく程のことなのか、どうか……」
カウンセリングといえば、もっと重苦しい悩みを抱えている人がしてもらう場所というイメージがある。
私のこんな、友達に相談すれば良いようなこと──。
『些細なことと感じる悩みも、あなたを苦しめるなら、それも重大なことだと思いますよ』
優しく諭す、その口調はみっともなく焦る私の気持ちを、一瞬で静かに導く。
あの飲み屋さんで、少し気の障る発言をする人と、同一人物だとは思えない。
吾妻さんの一言が、私の背中を押した感覚がした。
有り得ないけれど、本当に背中に触れられたような感触がした。
「是非……よろしくお願いします」
『はい。こちらこそ、よろしくお願い致します。では、お日にちを決めましょうか。ご都合がよろしいのは、いつですか?』
「私は、いつでも大丈夫です」
『そうですか。……直近ですと、来週の火曜日、最終のお時間になりますね』
「じゃあ、その日でお願いします」
『わかりました。では、ご予約させていただきますので、お名前を教えていただけますか』
「うっ……」
『……? どうされましたか』
いずれは、名乗らなければいけないことは、分かっていたけれど、一体どんな反応をされるのか不安になる。
やむを得ず、恐る恐る名乗る。
「い、伊勢と言います」
『……』
電話口の向こうから、声が聞こえなくなった。