玻璃の向こう
テントを張り出した小体なたたずまいの店のドアをくぐった。
テーブル席が四つに、カウンター席がいくつか。たしかに小さな店だ。

「お待ちしてました」
エプロン姿のマダムに、柔和な笑顔で迎えられ奥のテーブルに通される。

「この店、デザインラボのチーフに教えてもらったんです。昔うちの会社がここの内装を手がけたから」

「ああ、なるほど」
道理で、面積は狭いけれど窮屈さを感じさせず、居心地のいい空間だ。空間のデザインとインテリアがぴたりと調和しているからだろう。
木の一枚板のカウンターは磨きこまれて、左官仕上げの壁とともに、歳月を重ねて風合いを増している。

「食前酒はどうなさいますか?」
メニューを渡しながらマダムが問うてくる。

「僕はソルティードッグをいただこうかな。奥谷さんは?」

「じゃあミモザを」

料理は四品とドルチェのコースを頼むことにした。
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