玻璃の向こう

「奥谷さんは入社して何年だっけ？」
マダムがキッチンに下がると圭介が口を開いた。

「三年目です」

「ずっと制作部？」

「はいそうです」

制作部。デザイナーの描いたデザイン画を、専用のソフトを使って図面に起こすのが主な業務だ。
一花は美大のデザイン科出身だ。プロダクトデザイナーになりたいなんて夢を描いたこともあるけれど、そんな特別な才能を与えられているのは、ごく一握りの人だ。そうたとえば、目の前にいる七村圭介のような。
それでもデザインに関わる仕事がしたいと、就職活動ではゼネコンや設計事務所、デザイン会社をメインに何十社もエントリーした。
大学の教授の口添えもあって、四商デザインテックに内定をもらえたときは、心底嬉しかったものだ。