玻璃の向こう
「あ、ほら、わたしの名字って奥谷だから。谷のしかも奥なんて、誰も来ないし人目に触れない場所ですよね。
どんなところでも、誰も見ていなくても一輪の花を咲かせるようにって、両親が一花っていう名前をつけてくれたんです」

「そうか、素敵な由来ですね」

ストレートに口にされると、ちょっと照れてしまう。そしてまた喋りすぎてしまった気がする。
どうしてか、彼に水を向けられると、思いは素直に言葉となって口から出てくる。

「七村さんは、なにかご趣味とかあるんですか?」
図々しくも、個人的な質問をしてみる。

「寝ても覚めても、デザインのことを考えている感じですね」
さらりと返される。

さすがだなぁ、と素直に感じ入る。彼ほどの人でも、才能の上にあぐらをかいているわけじゃない。不断の努力と揺るぎない情熱があって、今の活躍がある。
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