玻璃の向こう
店内のしつらえと、そしてマダムの笑顔と同じように、料理も気取りなくするりとこちらの身のうちに溶けこんでくるような、そんな味わいだ。

カブのポタージュは、丁寧に裏ごしされていることが舌に伝わってくる。パスタのラグーソースは、上質の肉をこれまた時間をかけて叩いたのだろう。歯ざわり、肉の香り高さがまるで違う。
何気ない一皿に見えるのに、口に運んでいると、不思議と緊張感までほぐれてくるみたいだ。

「美味しいです。すごく心がこもっている味がします」
素直に圭介に告げた。

「奥谷さんは、やっぱり感性が鋭いな。すぐに本質を見抜く」
感心したような口調だ。

彼のような人に褒められるなんて。嬉しいとか恥ずかしいより、驚きが先にたつ。
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