玻璃の向こう
「奥谷さん、お酒はいけるほう?」
メインの前に、圭介がそう問うてきた。

「あまり強くなくて。いただくとしても、グラス一杯くらいです」
まだ食前酒もグラスに残っている。

「今夜はアルコールより、ペリエをもらいたい気分だな」

「わたしもできたらそっちのほうが」

圭介が目配せすると、なぜだかマダムはいったん厨房に下がった。ふたたび姿を現した彼女は、なにやら箱を手にしている。

「行きつけの店って便利なんですよ。ちょっとしたわがままを聞いてくれるから」
圭介がつぶやく。

なんのことだろう。
戸惑いながら、圭介とマダムに交互に視線を向ける。

テーブルに小さな木の箱がそっと置かれた。

「これできみと乾杯したいんだ」
圭介が蓋を開けた。
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