玻璃の向こう
解決法が見つからない壁にぶち当たる。人生で初めての経験だった。

これが挫折というやつか。醒めた頭のすみで、そんなことを思った。

圭介が仕上げた図面を目にしたデザインラボのチーフの一言。
「非の打ちどころのない美女、という感じだな」

最初は褒め言葉と受け取ったが、続く言葉に胸をつかれた。

「きみは彼女と恋に落ちるかい?」

非の打ちどころのない美女を目の前にして、それだけで恋に落ちるだろうか———?

答えは否だった。
欠けているところはない。だがそれでは足りない。

ひとの心を揺り動かすのは、完璧さではない。
自分のデザインになにが足りないのか、おぼろげながら見えてきた。

ならばどうすれば、ひとの心を動かせるのか。ひとは恋に落ちるのか。
新たな悩みの中で、もがき試行錯誤の日々が続いた。
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