玻璃の向こう
この瞳が三日月形に細まったら。口もとがほころんだら。どんな表情を見せるだろう。
笑った顔が見たい。
そう思わせる女性だった。

率直に、なぜプレスガラスのコップを美しいと感じるものにあげたのか、問いを投げかけた。

答える一花の言葉は、聞きやすかった。感情と理論のバランスが取れているのだろう。
繊細な感性と、それを的確に言語化する表現力。

宝箱にしまっていたものを大切に取り出すように、プレスガラスの思い出を語る一花。その言葉に耳を傾けるうちに、圭介の心の奥から呼び起こされるものがあった。

繭から羽化したばかりの蝶の繊細な羽ばたきを、息をつめて見守りながら、その神秘と美しさに魅了されていた少年の日の自分。

きっと誰の心にもある、遠い日の憧憬。

自分はいま感情を揺さぶられている。目の前にいるひとりの女性に。
同時に、すでにデザインのインスピレーションが湧きはじめていた。

いま手がけているデザインのコンセプトを一から作り直さなくては。
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