玻璃の向こう
一花との面談から十日ほどたった日のこと。
チーフを通して、圭介が提案したデザインの採用が告げられた。
コンペの翌日だった。つまりクライアントは即決したということだ。

「ひとつ殻を破ったな」
チーフの表情にも満足の色が浮かんでいた。

それは、とある財団法人が運営する小さな美術館の改装だった。

エントランスホールの壁は漆喰に、というのがクライアントの希望だったが、これが難問だった。
既存のクロスを剥がすと、糊が残り凹凸が出る。上から漆喰を塗ってもきれいに仕上がらないし、時間も予算もかかりすぎる。

クロスを張り直し、調度で凝るという他社のデザインに対し、圭介は壁の一部に木のパネルを使用することを提案した。
木地の木目を生かし、その上から白い塗料を塗った。塗ってはペーパーをあて、また塗って、ペーパーをあてて、と工程を重ねた。
そうすることで、予算を抑えながら奥行きと陰影のある白の面材を生み出せるのではと思いついたのだ。

デザインラボのスタッフとさまざまな木に、いく通りもの濃さの白を塗って、何種類かのサンプルを作った。
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