bitterlips
5月30日。
上京して、1ヵ月が経ったこの日
1人の男が声をかけてきた。
暇つぶしに、梓と暮らすボロアパートの近くの公園で
アコギを鳴らしていたときだった。
「ギター、ここでよくするの?」
突然話しかけてきた、背の高い男。
長めの明るい茶髪を、風に揺らしながら俺の隣に座る。
「……今はただ、暇つぶし」
「へえ?それにしてはギター上手いな」
感心したように
俺の顔とギターを交互に見る。
そんな男の肩には、ゴツゴツしたケースに包まれたギターが掛けられていた。
「オレは、岩渕世那。ギターしてるんだ。
HiSSってバンドで」
これが、世那との出会いだった。
まさかこんなところでバンドマンと出会うなんて、思ってもいなかった。
でも、この世那との出会いで、東京でのバンド生活が幕を開けたのだ────