正直者は死んでしまえ
模範生
テストが終わってから三日後の放課後。
いつもの様に秋人と凛香と一時間ほど無駄話に付き合わされた新二がバスルームに入ると、外から机でドアが塞がれる気配がした。
急いでドアを叩くが、外からしっかり押さえつけられていて開きそうもない。
直後……個室の中から杉浦が現れて瞳孔を獲物を狙う蛇の様に細める。
その手には電気椅子の一部と思しき鉄棒が握られていた。
「何のつもりだ?」
新二が落ち着いて尋ねると、杉浦の声は氷の様に冷たかった。
「この状況を見てもまだ分からないのか?」
「状況は分かっている。分かっている上で何のつもりだと聞いたんだ」
「つまり分からないのは僕の意図か。なら説明してやろう。竜崎新二、今から君に制裁を加える」
「お前がそんな強引な手段に出るとは予想外だな。さてはテストの出来が悪くて闇落ちでもしたか?」
「いやテストの手応えは上々だったし、君たち三人を除くクラスの仲間と情報共有したおかげである程度点数は把握している。君への勝算は充分にある点数だ」
「なら堂々と返却日まで待てばいいだけの話だろ」
「そうしたいところだが、みんなと話し合った結果『保険』をかけようということが決まってね。正直、君の実力は僕でも図り切れない。だから、万が一僕が負けても今後君がクラスを脅かさないよう先手を打つことにした」
そして、細い腕には似つかわしくない鉄棒を軽く振ってみせる。
「これは電気椅子の一部を外して僕が改造して作った『電撃棒』だ。『おしおき』の電圧の半分以下の威力だが、それでも長時間使用すれば君に十分な精神的苦痛を与えられる」
「だから何のつもりだって何回言わせる気だ? ここで俺を痛めつけてもテストの点数は変わらねえだろうが」
「確かにテストの結果はもう誰にも変えられないし、もし僕が負ければ君は僕を間違いなく排除するだろう。……だが、僕がいなくなってもこの苦痛がずっと続くとしたら? 僕の遺志が誰かにずっと引き継がれて、君に終わらない悪夢をもたらしにやって来るとしたら、果たして君はこの先もトップを維持し続けられるかな?」
「……まさか」
新二が視線を横に向けると、トイレの個室の陰から更に二人の生徒が現れた。
どちらも比較的大柄な男子生徒で、それぞれの手には同じく『電撃棒』が握られている。
三体一。この狭い空間でこの人数差は流石に負が悪い。
これは……詰みか。
新二はポケットに忍ばせていた、給食のプレートの一部を研いで作ったナイフからそっと手を放した。
『授業中でなければどんな行為も容認される』という仮説に至ってから、新二は常に周囲を警戒し続けてきたつもりだった。
だが正直に言えば自分の敵などいないと思っていた。
現にそんな油断があったからこそ、彼らにここまで準備する隙を与えてしまったのだ。
「一応最後に聞いておく。竜崎新二、僕たちに降参するつもりはないか?」
「降参とは具体的にどういうことだ?」
「服従を誓うなら、その優秀な頭脳に免じて『選ばれし七人』になれるチャンスを与えよう。みんなと一緒に、より良いクラスを目指して一緒に手を組む気はないか?」
情けをかけているつもりなのか、穏やかに問いかける杉浦に、
「プッ……より良いクラスを目指そうだって?」
新二はこんな状況にも関わらず吹き出してしまった。
「『お前たちにとってより良いクラス』だろうが」
「やれ」
いつもの様に秋人と凛香と一時間ほど無駄話に付き合わされた新二がバスルームに入ると、外から机でドアが塞がれる気配がした。
急いでドアを叩くが、外からしっかり押さえつけられていて開きそうもない。
直後……個室の中から杉浦が現れて瞳孔を獲物を狙う蛇の様に細める。
その手には電気椅子の一部と思しき鉄棒が握られていた。
「何のつもりだ?」
新二が落ち着いて尋ねると、杉浦の声は氷の様に冷たかった。
「この状況を見てもまだ分からないのか?」
「状況は分かっている。分かっている上で何のつもりだと聞いたんだ」
「つまり分からないのは僕の意図か。なら説明してやろう。竜崎新二、今から君に制裁を加える」
「お前がそんな強引な手段に出るとは予想外だな。さてはテストの出来が悪くて闇落ちでもしたか?」
「いやテストの手応えは上々だったし、君たち三人を除くクラスの仲間と情報共有したおかげである程度点数は把握している。君への勝算は充分にある点数だ」
「なら堂々と返却日まで待てばいいだけの話だろ」
「そうしたいところだが、みんなと話し合った結果『保険』をかけようということが決まってね。正直、君の実力は僕でも図り切れない。だから、万が一僕が負けても今後君がクラスを脅かさないよう先手を打つことにした」
そして、細い腕には似つかわしくない鉄棒を軽く振ってみせる。
「これは電気椅子の一部を外して僕が改造して作った『電撃棒』だ。『おしおき』の電圧の半分以下の威力だが、それでも長時間使用すれば君に十分な精神的苦痛を与えられる」
「だから何のつもりだって何回言わせる気だ? ここで俺を痛めつけてもテストの点数は変わらねえだろうが」
「確かにテストの結果はもう誰にも変えられないし、もし僕が負ければ君は僕を間違いなく排除するだろう。……だが、僕がいなくなってもこの苦痛がずっと続くとしたら? 僕の遺志が誰かにずっと引き継がれて、君に終わらない悪夢をもたらしにやって来るとしたら、果たして君はこの先もトップを維持し続けられるかな?」
「……まさか」
新二が視線を横に向けると、トイレの個室の陰から更に二人の生徒が現れた。
どちらも比較的大柄な男子生徒で、それぞれの手には同じく『電撃棒』が握られている。
三体一。この狭い空間でこの人数差は流石に負が悪い。
これは……詰みか。
新二はポケットに忍ばせていた、給食のプレートの一部を研いで作ったナイフからそっと手を放した。
『授業中でなければどんな行為も容認される』という仮説に至ってから、新二は常に周囲を警戒し続けてきたつもりだった。
だが正直に言えば自分の敵などいないと思っていた。
現にそんな油断があったからこそ、彼らにここまで準備する隙を与えてしまったのだ。
「一応最後に聞いておく。竜崎新二、僕たちに降参するつもりはないか?」
「降参とは具体的にどういうことだ?」
「服従を誓うなら、その優秀な頭脳に免じて『選ばれし七人』になれるチャンスを与えよう。みんなと一緒に、より良いクラスを目指して一緒に手を組む気はないか?」
情けをかけているつもりなのか、穏やかに問いかける杉浦に、
「プッ……より良いクラスを目指そうだって?」
新二はこんな状況にも関わらず吹き出してしまった。
「『お前たちにとってより良いクラス』だろうが」
「やれ」