正直者は死んでしまえ
「……⁉ んんっ!」
衝撃のあまり、秋人の目が大きく見開いて細い四肢が痙攣する。
彼女の唇から毒のような体温が流れ込んできて彼の脳髄を、そして全身を芯まで侵食していく。
数秒後。先生が唇を離すと同時に、秋人は糸が切れた人形の様に倒れた。
「先生……⁉ 秋人君に何をしたんですか⁉」
あまりの出来事に凛香が声を震わせると、『ペインター』先生は事もなげに言った。
「簡単なことだ。東雲の中に残っていた螺旋を全て塗り潰した」
「言っている意味が分かりません……! 早く秋人君を介抱しないと!」
駆け寄ろうとする凛香の肩を、『警備員』の一人が掴む。
「放して下さいっ! 早くしないと秋人君が!」
「安心しろ、気絶しているだけだ。恐らくはファーストキスだろうからショックも受けるだろう。――もっとも、普通の人間だったら流石に気絶まではしないだろうが」
「どういうことですか……⁉ まさか毒を……?」
「いやそんなことをして何の意味がある? これは彼自身の問題だ」
「おっしゃる意味が分かりません!」
「本当は本人に説明させるはずだったのだが仕方ない、特別に教えてやる。螺旋の正体は……『執着心』だ」
彼女はしゃがみ込み、眠るように目を閉じている秋人を眺めながら言う。
「『特別学級』に連れて来られる生徒は共通して、以前いた学校で『危険因子』と判断された者たちだ。危険と言っても単に素行や成績が悪い生徒を指すのではない。『特定の概念に危険なほど固執している者』のことだ。一つの場所に執着して永遠に回り続ける――終わりなき螺旋の様に」
そう言って、彼女は倒れたままの杉浦に目を向けた。
「自我の崩壊を招くくらい盲目的に『正義』を唱える者」
次に、同じく意識を失っている竜崎を視界に捉える。
「惚れた相手の為なら死も辞さぬ程『愛情』に溢れた者」
続いて、茫然と立ちすくむ凛香を正面から見据えた。
「考えることを放棄しただ一心に『秩序』を重んじる者」
最後に、あどけない顔で眠り続ける秋人に目を戻す。
「そして……己の罪すら自覚できぬ程白く『純粋』な者」
そう言い終えると――『ペインター』先生は凛香を無感情ではなく、紛れもない侮蔑の目で見た。
「もう分かるだろう――お前以外は皆『救われる者』なのだ」
衝撃のあまり、秋人の目が大きく見開いて細い四肢が痙攣する。
彼女の唇から毒のような体温が流れ込んできて彼の脳髄を、そして全身を芯まで侵食していく。
数秒後。先生が唇を離すと同時に、秋人は糸が切れた人形の様に倒れた。
「先生……⁉ 秋人君に何をしたんですか⁉」
あまりの出来事に凛香が声を震わせると、『ペインター』先生は事もなげに言った。
「簡単なことだ。東雲の中に残っていた螺旋を全て塗り潰した」
「言っている意味が分かりません……! 早く秋人君を介抱しないと!」
駆け寄ろうとする凛香の肩を、『警備員』の一人が掴む。
「放して下さいっ! 早くしないと秋人君が!」
「安心しろ、気絶しているだけだ。恐らくはファーストキスだろうからショックも受けるだろう。――もっとも、普通の人間だったら流石に気絶まではしないだろうが」
「どういうことですか……⁉ まさか毒を……?」
「いやそんなことをして何の意味がある? これは彼自身の問題だ」
「おっしゃる意味が分かりません!」
「本当は本人に説明させるはずだったのだが仕方ない、特別に教えてやる。螺旋の正体は……『執着心』だ」
彼女はしゃがみ込み、眠るように目を閉じている秋人を眺めながら言う。
「『特別学級』に連れて来られる生徒は共通して、以前いた学校で『危険因子』と判断された者たちだ。危険と言っても単に素行や成績が悪い生徒を指すのではない。『特定の概念に危険なほど固執している者』のことだ。一つの場所に執着して永遠に回り続ける――終わりなき螺旋の様に」
そう言って、彼女は倒れたままの杉浦に目を向けた。
「自我の崩壊を招くくらい盲目的に『正義』を唱える者」
次に、同じく意識を失っている竜崎を視界に捉える。
「惚れた相手の為なら死も辞さぬ程『愛情』に溢れた者」
続いて、茫然と立ちすくむ凛香を正面から見据えた。
「考えることを放棄しただ一心に『秩序』を重んじる者」
最後に、あどけない顔で眠り続ける秋人に目を戻す。
「そして……己の罪すら自覚できぬ程白く『純粋』な者」
そう言い終えると――『ペインター』先生は凛香を無感情ではなく、紛れもない侮蔑の目で見た。
「もう分かるだろう――お前以外は皆『救われる者』なのだ」