正直者は死んでしまえ
女教師が他人ごとの様に呼びかける中、壁際にはまだ数人の生徒たちが固まっている。
その中で大柄の男子生徒は、ジッと先ほどの女子生徒の後ろ姿を見つめていた。
それから秋人の方を見てブンブンと首を横に振った時、振り返った黒髪の女子生徒と偶然目が合った。
彼女は彼に弱弱しく微笑む。
「ねえ、先生の言う通りにしよ? どうなるかも分からない所にバラバラで連れていかれるくらいなら……私はみんなと一緒にいたい」
――【一緒にいたい】
少女の言葉に、彼は反射的に目を見開く。
その瞳孔に、眩い螺旋の刻印が光ったのを自身も気づかぬまま。
「……わーったよ! 座ればいいんだろ、座れば!」
覚悟を決めた後の行動は早く、彼はドカッと彼女の斜め後ろの自分の席へ座り込んだ。
「お前、名前は?」
「私は夏宮凛香(なつみや りんか)。あなたは?」
「俺は竜崎新二(りゅうざき しんじ)。いいか、今回は言う通りにしたが別にお前の為じゃない。ここが嫌になったらいつでも出ていってやるからな!」
強情に腕を組む新二に、凛香は穏やかに笑う。
「今はそう思ってくれていれば充分よ。私は新二君に幸せになって欲しいだけだから」
「なっ……お前よくそんな凄いことサラリと言えるな……まさか、俺のこと――」
新二がしどろもどろで言いかけた時、凛香の視線が別の人物に向けられていることに気付いた。
電流を流され踏みつけられて尚、電気椅子に座ったまま震えている少年。
彼女の視線の先に気付き、新二の脳髄をドス黒いものが蠢いて――
【ピピピピピピピピピ……】
五つだけ残っていた空席から、まるでキッチンタイマーの様な簡素な電子音が響いた。
同時に、教室前方の金属製の扉が勢いよく開かれる。
「時間切れだ。では約束通り早瀬、工藤、島田、戸山、前園……お前たちは出て行って構わないぞ」
その言葉を合図に、入り口から特殊部隊の様に武装した男が五人入ってきて、処分対象となった生徒たちを引っ張っていく。
五人の表情は不安、安堵、困惑、歓喜、茫然……と様々だったが、彼らがドアの向こうに消えると女教師は教壇に手をついて何事もなかった様に生徒を見渡した。
「さて、これでやっと今から三十五人での学級生活のスタートということになる。私のこの教室での名前は『ペインター』だ。呼ぶ時は必ず『先生』を付けるように。そして最初に一言だけ言っておく」
「私はお前たちが卒業までこの教室に残っていることを心から祈っている」
その言葉に込められた重みを理解できた者は、果たして何人いただろう。
だが、彼女はそれを気にする様子もない。
いや……気にしても無駄であることを悟っている。
「早速だが特別学級初日一時間目の授業を始める。お前たちに与える課題は一
つだ――隣の生徒を席から蹴落とせ」
「「「ええっ!?」」」
「さっさとやれ。やらなければ――『おしおき』だ」
そう言って、『ペインター』先生は無表情のままリモコンをポケットから出す。
結局、その日の授業が終わるまでに更に二人の脱落者が出た。
その中で大柄の男子生徒は、ジッと先ほどの女子生徒の後ろ姿を見つめていた。
それから秋人の方を見てブンブンと首を横に振った時、振り返った黒髪の女子生徒と偶然目が合った。
彼女は彼に弱弱しく微笑む。
「ねえ、先生の言う通りにしよ? どうなるかも分からない所にバラバラで連れていかれるくらいなら……私はみんなと一緒にいたい」
――【一緒にいたい】
少女の言葉に、彼は反射的に目を見開く。
その瞳孔に、眩い螺旋の刻印が光ったのを自身も気づかぬまま。
「……わーったよ! 座ればいいんだろ、座れば!」
覚悟を決めた後の行動は早く、彼はドカッと彼女の斜め後ろの自分の席へ座り込んだ。
「お前、名前は?」
「私は夏宮凛香(なつみや りんか)。あなたは?」
「俺は竜崎新二(りゅうざき しんじ)。いいか、今回は言う通りにしたが別にお前の為じゃない。ここが嫌になったらいつでも出ていってやるからな!」
強情に腕を組む新二に、凛香は穏やかに笑う。
「今はそう思ってくれていれば充分よ。私は新二君に幸せになって欲しいだけだから」
「なっ……お前よくそんな凄いことサラリと言えるな……まさか、俺のこと――」
新二がしどろもどろで言いかけた時、凛香の視線が別の人物に向けられていることに気付いた。
電流を流され踏みつけられて尚、電気椅子に座ったまま震えている少年。
彼女の視線の先に気付き、新二の脳髄をドス黒いものが蠢いて――
【ピピピピピピピピピ……】
五つだけ残っていた空席から、まるでキッチンタイマーの様な簡素な電子音が響いた。
同時に、教室前方の金属製の扉が勢いよく開かれる。
「時間切れだ。では約束通り早瀬、工藤、島田、戸山、前園……お前たちは出て行って構わないぞ」
その言葉を合図に、入り口から特殊部隊の様に武装した男が五人入ってきて、処分対象となった生徒たちを引っ張っていく。
五人の表情は不安、安堵、困惑、歓喜、茫然……と様々だったが、彼らがドアの向こうに消えると女教師は教壇に手をついて何事もなかった様に生徒を見渡した。
「さて、これでやっと今から三十五人での学級生活のスタートということになる。私のこの教室での名前は『ペインター』だ。呼ぶ時は必ず『先生』を付けるように。そして最初に一言だけ言っておく」
「私はお前たちが卒業までこの教室に残っていることを心から祈っている」
その言葉に込められた重みを理解できた者は、果たして何人いただろう。
だが、彼女はそれを気にする様子もない。
いや……気にしても無駄であることを悟っている。
「早速だが特別学級初日一時間目の授業を始める。お前たちに与える課題は一
つだ――隣の生徒を席から蹴落とせ」
「「「ええっ!?」」」
「さっさとやれ。やらなければ――『おしおき』だ」
そう言って、『ペインター』先生は無表情のままリモコンをポケットから出す。
結局、その日の授業が終わるまでに更に二人の脱落者が出た。