もう一度〜あなたしか見えない〜
時計の針は11時を回っていた。決して珍しいことではなかったが、さすがに帰宅時間が、このくらいになる時には、今までは事前に連絡が来た。


まさか、もう帰って来ない気なんじゃ・・・不安が胸をよぎる。たまりかねて携帯を手に取った時だ。


ガチャリ、ドアが開く音がした。その瞬間、私は弾かれたように玄関に走った。


「お帰りなさい!」


さすがに新婚当時みたいに夫に飛びつくことは、まして今の状況では出来ないけど、私はそのくらいの勢いで、夫を出迎えた。


「ただいま。」


一方の夫はいつもと、あまり変わらない雰囲気で答えると、居間に入ったが、食卓に夕食の準備が出来ているのを見ると、ちょっと済まなそうな表情になった。


「待っててくれたのか。スマン、夕飯は済ませて来た。連絡すればよかったな。」


そう言って私に頭を下げると


「明日も早いんだろ?早く休んだ方がいいよ。」


と言い残して、立ち去ろうとするから


「待って!」


私は思わず、夫の腕を掴んだ。


「お願い、話をさせて。お願いします。」


その言葉を聞いた夫は、そっと私の手を振り払うと、私の顔を見た。
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