もう一度〜あなたしか見えない〜
定時を2時間程、過ぎたこともあって、社内はだいぶ閑散として来ていた。私は彼に連れられ、空いていた会議室に入った。


「どうしたの?」


「やっぱり無理!」


部屋に入った途端、彼が真っ直ぐに私を見ると、叫ぶように言った。


「やっぱり諦められない。」


「えっ?」


「僕は君を、そんないい加減な思いで抱いたんじゃない。」


「今更、何を・・・。」


態度を豹変させた彼に戸惑う私。


「僕は君に旦那がいるのを承知で、好きになったんだ。旦那にバレたくらいで、尻尾巻いて逃げ出そうなんて、どうかしてた。会社のことは、今更どうにもならないけど、僕は君を諦めない。君を幸せにしてみせる。僕と一緒に来てくれ。」


そう言うと私を抱きしめようとするから、私は懸命にそれを振り払う。


「止めて、ここをどこだと思ってるの!」


そう言って、彼を睨み付けた私は、しかしすぐに表情を和らげる。


「ごめんなさい。私が全部悪いんだもんね。夫がいるのに、夫より大切な人はいないのに、私はあなたを受け入れてしまった。夫を裏切り、あなたの真心を弄んで・・・最低な女だと思う。本当にごめんなさい。」


「・・・。」


「だけど私はやっぱり夫を愛してる。夫より大切な人は何処にもいないの。だからあなたと一緒の道は歩けない。許して下さい。」


そう言うと、私は深々と彼に頭を下げた。


「わかってますよ。そんなこと、最初っから。」


そんな私の頭の上から、切なそうな声が降って来た。
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