もう一度〜あなたしか見えない〜
「ちゃんと食べてるの?」


思わず聞いてしまった。その私の問いに、夫は苦笑いを浮かべる。


「食欲は満たさないといけないから、何かは口にしてるけどね・・・。これからは、自分で何でもやらなきゃならないんだから、そんなんじゃいけないということはわかってるんだけど。」


「ねぇ、どうしてもダメなの?」


私はたまらなくなって言った。


「全て私が悪いんです。妻として、もう見られないと言われるなら仕方がないです、家政婦としてでいいから、側に置いて下さい。一緒にいさせてください、お願いします。」


「バカなことを言うな!」


そう言って頭を下げた私の上から、怒気を含んだ夫の声が降って来た。ハッとして頭を上げた私の目に映った夫の顔は、声とは裏腹に悲しげだった。


「僕はそんな君の言葉は聞きたくない。」


「ごめんなさい・・・。」


一瞬の沈黙、その後、夫が自嘲気味の笑みを浮かべた。


「偉そうなことを言ってしまった、今まで君を散々家政婦扱いしてきたのは、自分なのにな・・・。」


「そんなこと、そんなことないよ。」


「僕は、君と出会ってから幸せだった。だが、その君からもらった幸せを、僕は君に同じように、返すことが出来なかった。許してほしい。」


なぜ、この人は私に謝るの?


「君がこれからの人生を共に歩むべきなのは、僕じゃない。僕は失格した。負け犬は尻尾を巻いて逃げ去るだけだ、今度は幸せになってくれ。僕はそれをこれからは遠くで祈らせてもらう。」


もはや取り付く島もない、そう思わざるを得なかった。
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