もう一度〜あなたしか見えない〜
「ご主人はあなたへの制裁は望まない。ですがあなたのお相手の方は絶対に許さないとおっしゃってるのはご存知ですね?」


「はい。」


「それはなぜだと思われますか?」


「・・・。」


「それはご主人がお相手の方を憎んでも、あなたを憎んではいないからだとは思いませんか?」


その言葉に、私はハッとして弁護士の顔を見た。


「ご主人が本件を初めて、私に相談に来られたのは今から半年以上前のことです。」


「えっ?」


「その時点で、ご主人は興信所に依頼して、あなたの不貞の証拠をつかんでおられました。つまり、ご主人は1年近く前から、あなたのことに気付いていたのです。」


私は愕然とした、夫はいつから気付いていたのかということを考えたこともなかった。そのことを気にする余裕もなかったし、せいぜいこの2、3か月のことだと勝手に思い込んできた。


「証拠は完璧でした。負ける要素など何もなかった、いつから始めますか?私は少々勢い込んでお聞きしてしまったのを覚えています。」


「・・・。」


「1時間ほどお話したでしょうか。でもその時には、ご主人はまたご相談に伺いますと言って、帰って行かれました。その後、電話で何度かお話はしましたが、次に来所されたのがあなた方の前に姿を見せた数日前です。その時には、もう固い決意をされていて、私と今後の打ち合わせをしました。その半年の間、いえ、その前も含めた約1年の間、ご主人は何を考えてらしたと思います?」


「・・・。」


「あなたが目を覚ますのを、あなたが帰って来てくれるのを、必死になって待っていた、そうは思われませんか?」


そう言うと弁護士は、真っ直ぐに私を見た。射貫くような視線だった。
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