もう一度〜あなたしか見えない〜
⑩
携帯が鳴った。相変わらず、何故か公衆電話からの着信。しかしそれを予期していたから、拒否設定は解除してある。私は1つ深呼吸をすると、通話ボタンを押した。


「もしもし。」


「どこにいるんだ？」


「家よ。」


「ズル休みか、いいご身分だな。」


「仕方ないでしょ、予想もしてない事態になってんだから。」


「ハハ、自業自得だな。それで腹は決まったか？」


嘲笑うように言う元夫。


「とりあえず、落ち着いて1回話しましょ。」


「そんな暇はない。イエスかノ－か、それだけ聞けばとりあえずいい。」


ぶっきらぼうな口調の元夫。威圧するつもりかもしれないが、そんなことで怯むつもりはない。


「どちらにしても1度は会わなきゃ、そちらの目的は達せられないんじゃないの？」


「なるほど、じゃいい返事を聞かせてもらえるということか。それなら出向かないわけにはいかないな。場所と時間は？」


「今晩6時、場所は『コンフィアンス』で。」


私がその場所を告げた時、電話の向こうで、元夫が一瞬息を呑んだのが、感じられた。


「どうしたの、まさか忘れちゃったの？」


「覚えてるよ。じゃあとで。」


不機嫌そうな声を出したあと、元夫は電話を切った。


コンフィアンス・・・「信頼」という名を持つこの店は、私がサ－クル仲間と大学時代、たむろしていた喫茶店。元夫と付き合うようになってからは、授業の帰りによくデ－トをした店だ。


そんな思い出の場所に、あえてあの人を呼び出したのには、もちろん意図がある。あの人の心に少しでも響いてくれればいいけど・・・。
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