もう一度〜あなたしか見えない〜
そして、私達は今、その場所で、向かい合わせに座っている。かつてのように、甘いム-ドなど、かけらもなく、「対峙している」という方が正しい表現かもしれなかった。


店の雰囲気は、あの当時とほとんど変わってなく、かつての私達のような、大学生たちが、思い思いのおしゃべりに花を咲かせている。ふっとあの時にタイムスリップしたような感覚に陥る。


「懐かしいね。」


場の雰囲気を、少しでも和まそうと、私はそんな言葉を口にするけど


「そんなことは、今は関係ない。」


という苛立った口調の元夫の言葉で、一瞬にして台無しになる。


「金は用意できたのか?」


周りの大学生たちのように、屈託ない笑顔で青春を謳歌するには、確かに私達は、年齢を重ね過ぎたし、いろいろなことを経験し過ぎただろう。


それにしてもあの時、この人と十数年後、この場所で、こんな形で向かい合うことになるなんて、想像もしたこともない。あまりにも悲しい現実だった。


「1000万なんて大金、とても私1人で用意できるものじゃないし、また用意するつもりもないわ。」


元夫の心を少しでも、解きほぐそうという意図を諦めた私は、はっきりとそう言った。その言葉に、元夫の表情は歪む。


「あなたの要求は、昨日も言った通り、法的根拠もないし、金額も法外すぎる。それに昨日のあなたの言葉は、はっきり言って恐喝よ。あなたがこれからも、ああいう言動を続けるなら、私にも考えがあります。」


そう言って私は目の前の男をにらんだ。その私の顔を、男は少し眺めていたけど


「なるほど、例の女弁護士あたりの入れ知恵か、そんなところらしいな。」


と冷笑を浮かべながら、言った。
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