もう一度〜あなたしか見えない〜
それから、あの人からの連絡はピタリとなくなった。とりあえず、渡したお金が、当面、あの人を満足させたのだろう。


しかし、このままあの人が私の前から、完全に姿を消すとは、とても思えなかった。元夫は明らかに困窮していた。当座を凌ぐ為に、私に接触して来たのは明らかだった。


つまり、あのお金が尽きた時、あの人が再び私に接触してくるであろうことは容易に想像出来る。


それにしても、わからない。私は妻として、あの人が給与として得ていた額を知っている。普通に暮らしている限り、生活に行き詰まるはずのない金額だった。


お酒は飲めたが、溺れるタイプではなく、煙草、バクチといった類のものにも無縁だった。女も私と暮らしている時は、私一筋。怪しい影すら感じたことはなかった。


だからこそ、あの人が新たなパートナーを得て、幸せに穏やかに暮らしている姿しか、思い描いて来なかった。


しかし現実は・・・私はこの5年の間に、あの人に何が起こったのか知りたかった。興味本位ではない。これは私にとっても重大な問題だからだ。


あの人に渡した100万というお金は、私にとって、決して簡単な額ではない。しかし、私はあと200万まではあの人の要求に応じるつもりだ。


先日、弁護士はあの時の慰謝料はせいぜい300万と言っていた。つまり私には元々、その金額をあの人に支払う義務はあったのだから。


でも、それを一括で支払う能力は、私にはないし、問題は今の状況では、あの人のお金の請求は、そこでは留まらなくなると思われることだ。


私が支払うお金を、なんとかあの人が立ち直るきっかけにして欲しいのは、私の為に、人生を狂わせてしまったあの人への償いの思いだったし、また自分自身を守る為でもあるのも、また確かなことだった。
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