もう一度〜あなたしか見えない〜
⑪
半年程、時が過ぎた。
その日、私は部下を連れ、取引先へ向かっていた。雑談をしながら、電車で移動していた私の携帯が鳴り出した。営業マンである私の携帯が、ところ構わず騒ぎ出すのは、別に珍しいことではなく、私は普段は移動中はマナーモードに切り替えているのだが、この時は失念してしまっていた。
こういう場合、マナー違反は承知だが、電話に出て、電車で移動中であることを告げて、降車したら、すぐ折り返す旨伝えて、電話を切るのが、我々営業マンの普通の対応だが、この時は、私は着信相手を確認すると、すぐに着信拒否の操作をした。
「主任、大丈夫なんですか?」
部下が驚いて、聞いて来るが
「いいのよ、こんな時間に掛けて来る方が悪いんだから。」
と思わず吐き捨てるように答える。マナーモードに切り替え、携帯をバッグに放り込んで、部下との話を再開するが、また携帯が震え出したのがわかる。放っておくと、留守電に切り替わるから、一旦止まる。
だけど、またすぐに携帯は震えだす。それを何回か懲りずに繰り返しているうちに、目的地の駅に着いた。
「ちょっと、ごめんね。」
部下に断って、少し離れた所で、私は通話ボタンを押した。
「もしもし。」
『お前、どういうつもりだ。』
怒りに満ちた言葉が耳に飛び込んでくるが
「そっちこそ、どういうつもり?こんな時間に電話掛けられても、出られるわけないでしょ。会社辞めちゃうと、その程度の判断もつかなくなるわけ?」
負けじと厳しい口調で言い返すと、向こうが怯む様子が伝わって来る。
「とにかく、今あなたの相手をしてる暇なんかないから。仕事終わったら、折り返すから番号教えてよ。」
『・・・。』
「それが嫌なら、せめて8時過ぎに連絡して。じゃ。」
私は「公衆電話」氏にそう言うと、電話を切った。
「お待たせ、行きましょう。」
そう部下に言って歩き出した私は、相手をやり込めた、一種の爽快感も感じていたけど
(いよいよ、来たのね。)
というビジネスとは全く異質の緊張感も、また感じ始めていた。
その日、私は部下を連れ、取引先へ向かっていた。雑談をしながら、電車で移動していた私の携帯が鳴り出した。営業マンである私の携帯が、ところ構わず騒ぎ出すのは、別に珍しいことではなく、私は普段は移動中はマナーモードに切り替えているのだが、この時は失念してしまっていた。
こういう場合、マナー違反は承知だが、電話に出て、電車で移動中であることを告げて、降車したら、すぐ折り返す旨伝えて、電話を切るのが、我々営業マンの普通の対応だが、この時は、私は着信相手を確認すると、すぐに着信拒否の操作をした。
「主任、大丈夫なんですか?」
部下が驚いて、聞いて来るが
「いいのよ、こんな時間に掛けて来る方が悪いんだから。」
と思わず吐き捨てるように答える。マナーモードに切り替え、携帯をバッグに放り込んで、部下との話を再開するが、また携帯が震え出したのがわかる。放っておくと、留守電に切り替わるから、一旦止まる。
だけど、またすぐに携帯は震えだす。それを何回か懲りずに繰り返しているうちに、目的地の駅に着いた。
「ちょっと、ごめんね。」
部下に断って、少し離れた所で、私は通話ボタンを押した。
「もしもし。」
『お前、どういうつもりだ。』
怒りに満ちた言葉が耳に飛び込んでくるが
「そっちこそ、どういうつもり?こんな時間に電話掛けられても、出られるわけないでしょ。会社辞めちゃうと、その程度の判断もつかなくなるわけ?」
負けじと厳しい口調で言い返すと、向こうが怯む様子が伝わって来る。
「とにかく、今あなたの相手をしてる暇なんかないから。仕事終わったら、折り返すから番号教えてよ。」
『・・・。』
「それが嫌なら、せめて8時過ぎに連絡して。じゃ。」
私は「公衆電話」氏にそう言うと、電話を切った。
「お待たせ、行きましょう。」
そう部下に言って歩き出した私は、相手をやり込めた、一種の爽快感も感じていたけど
(いよいよ、来たのね。)
というビジネスとは全く異質の緊張感も、また感じ始めていた。