もう一度〜あなたしか見えない〜
取引先を何社か周り、私が会社に戻ったのは、もう5時過ぎ。それから上司への帰社報告やデスクワ-クをいくつか片づけ、私が退社したのは読み通り、午後8時を少し回った頃だった。


「さすがに時間に正確だな。」


すると聞こえて来た声。


「お出迎えありがとう。立ち話もなんだから行きましょう。」


電話で、とは言ったが恐らく待ち構えているだろうと予期していた私は、特に驚くこともなく、そう声を掛けるとそのまま歩き出す。なにかごねるかと思ったが、元夫もおとなしく後に続く。


「お腹すいちゃったな。久し振りに夕飯でも一緒にどう?」


「何のつもりだ?」


私の態度に、戸惑いを隠せないように、元夫がやや厳しい口調で言ってくる。


「別に何もないよ。本当にお腹ペコペコなんだ。付き合いなさいよ、ご馳走するから。どうせ私に言いたいことがあるんでしょ。」


フフ、あなたの影におびえて、ずっとおどおど暮らしてたとでも思った?お生憎様、私は待ってたんだよ、あなたが現れるのを。


元夫を引き連れる形で、私は居酒屋に入った。


「とりあえずビ-ルかな。あなたはどうする?」


「俺はいい。」


昼間から、私にあしらわれてるような形になり、元夫は苦虫を嚙み潰したような表情になっている。


ビ-ルとお通しはすぐ来た。本当に喉が渇き、空腹を覚えていた私はジョッキを手に取ると


「お疲れ様、いただきます。」


と元夫に笑顔を送ると、のどに流し込む。


「おいしい。」


ジャッキが半ば以上空いたのを見た元夫は、驚きの表情になる。そうだよね、あなたと一緒にいた頃は、コップ一杯のビ-ルもなかなか減らなかったから。


「さて、何を食べようかな。」


と私が今度は、メニュ-を広げたから、さすがに元夫の表情が変わった。
< 47 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop