もう一度〜あなたしか見えない〜
「今更、なんでこんな話してるんだろうな、僕は。すまない。」


表情を歪めて、立ち尽くす私に、慌てて頭を下げる元夫。


「ううん。」


そんな元夫に、私も慌てて首を横に振る。少し見つめ合った私達は、またどちらともなく、駅に向かって歩き出す。


そうだよね。私はあなたを本当に軽い気持ちで、裏切ってた。それが、どれだけあなたを傷付け、苦しめたか。


違う、それは今も現在進行形なんだ。あれからまだたった5年しか経ってないんだから。私、何勘違いしてたんだろう、バカ過ぎるよね・・・。


そんなことを考えながら、元夫の少し後ろを歩いていた私は突然襲って来た吐き気に、思わず声を出して、しゃがみ込んでしまった。


それに気付いた元夫が慌てて、私に近づく。


「どうしたんだ、大丈夫か!」


「ごめんなさい、ちょっと気分が・・・。」


その私の言葉に、優しく背中を擦ってくれる元夫。それは私が落ち着きを取り戻すまで続いた。


「ありがとう、もう大丈夫だから。」


「いや。ご存知のような所だけど、少し僕の部屋で休んでいった方がいい。」


「でも・・・。」


「心配するな、もう絶対変なことはしないから。約束する。」


そう言うと、元夫は携帯を取り出す。呼んでもらったタクシーに乗って、この人のアパートに着いたのは、それから15分後くらいだった。


急いで敷いてくれた布団に、横にならせてもらう。正直、助かった。


「水、飲む?」


「うん、ありがとう。」


その返事に、元夫はコップに水を注いで、持って来ると、私をそっと抱き起こしてくれる。


「ゆっくり、な。」


そう言いながら、私の身体を支え、コップを口元まで持って来ると優しく、飲ませてくれる。半分くらい飲んだ私は口をコップから離した。


「ありがとう、少し落ち着いた。」


「なら、よかった。ゆっくり休んでくれ。」


「迷惑かけて、ゴメンね。」


「そんなことないよ。」


「ここんとこ、仕事がハードだったから疲れてたのかな?とりあえず、お言葉に甘えさせてもらうね。」


再び横になった私は、目を瞑った。


そんな私を、元夫は少し眺めていたみたいだけど、ついに意を決したように口を開いた。


「なぁ、君、まさか・・・。」


その言葉で、私が目を開けると、真剣な眼差しで、こっちを見ている。
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