待ちぼうけ
軽い調子に、真面目な彼女がどう反応するのか、半分おもしろがりながら。
「……いいんですか?」
まさかの反応に、俺はまんざらでもなくて。
「うん。いーよ。じゃあ今から、俺の彼女ね」
思えば、馬鹿みたいに軽い始まりだったけど、育った気持ちは本物だった。
彼女との付き合いは順調で、秋を迎えるころには俺の方が本気になっていた。
「ねぇ先輩」
「由利、いい加減その呼び方やめれば?」
「え? じゃあ、水上さん?」
「じゃなくて。俺、彼氏なんでしょ? 名前で呼べばいいじゃん」
由利の顔が真っ赤に染まる。
他の誰も知らない。こんなときの由利の瞳は、潤んでいてとてもかわいい。普段は眼鏡の奥に隠して見えないけれど、本当にかわいいんだ。
誰にも教える気はない。これは俺だけのもの。
「さ、……悟志(さとし)さん?」
「うん。そう」
かわいくてたまらなくて、俺は彼女にキスをする。
真っ赤な顔も、つないだ手の熱さも、唇の温度も。
すべて俺だけのもの。