待ちぼうけ

秋には由利の誕生日。そして冬はクリスマス。年越しにバレンタイン。イベントだらけの冬が過ぎていく。
春にはお互いの友人にも紹介しあって、夏にはまた同じバイトをした。

「お前の彼女、地味じゃない?」

そう言うやつもいたけれど、「分かってないな」と答えておいた。

見た目で言ったら、たしかに由利は地味だろう。
だけど、俺が好きなのは、素直で一途で純情なところ。
俺だけをまっすぐに見て、ひたむきに愛情を寄せてくる。
そんなところが好きなんだから、他の奴になんてわからなくていい。

俺だけを見てくれることがうれしくて。
手を繋いでどこにでも連れていく。
君を驚かすことも、喜ばせることも全部楽しかった。
次のクリスマスに、危うく君を怒らせたときは、目の前が真っ暗になった。
初めてだ。
こんなに、世界がひとりの人でいっぱいになるなんて。

だけど幸せな日々にも、いつかは終わりが来る。
二月も終わりの、何の記念日でもない金曜日に、俺は由利に会いに行けなかった。
この水時計前に、待ちぼうけにさせたまま。

待たせてごめん。行けなくてごめん。
何度謝っても、もう由利には届かなかった。
由利はたくさん泣いて、泣きすぎて意識を失った。
寒い中ずっと外にいたせいで熱を出し、三日間寝込んだあと、しばらく引きこもりになった。
俺が好きだった笑顔はもう二度と戻ることはなく、俺は失意のまま、ここで彼女を待つことを決めた。

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