待ちぼうけ


また風が吹いた。
いつの間にか、水時計前の人はすっかり少なくなっていて、俺ともうひとりしかいなくなっていた。

俺は何の気なくその男を眺めた。

この男は、もう一時間近くここにいる。
相手が遅れているのか、何度も時計を眺めては、肩を落としたり、白い息をハーっと吐き出して気を取り直したりしている。
朴訥とした感じのコートを羽織った男だ。仕事帰りなんだろう。中からスーツが覗いている。おとなしそうな男だが、服の趣味がよく、清潔感が漂っている。

そして俺も前を見る。
週末前のアフターファイブ。仕事帰りの人間も多くこの通りを通る。

「……!」

道路を挟んだ向こうのアーケードから、近づいてくる女性に目を奪われた。
グレーのコートからわずかに覗いて見える、黒いスーツのスカート。髪はハーフアップにしていて、おとなしそうだが、意思の強そうな瞳が覗いている。

(ああ、……眼鏡、外したんだな)

漠然とそう思って彼女を見つめた。
由利だ。あれから五年も経っている。彼女だって社会人になっていてあたり前なのだ。

彼女はまっすぐこちらへ向かってくる。
俺の心臓はドンドン激しくなって、若干のパニックになった。
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