待ちぼうけ
五年前のあの日。
俺は、家を出るのが遅れて焦っていて。
待ち合わせに向かう途中、信号無視をして事故に遭った。
意識不明の重体で、携帯は事故の際に故障。一人暮らしの俺の身元の確認には相当てこずったらしい。
この水時計前で深夜近くまで待ちづづけた由利が、俺の死を知ったのは翌日のことだった。
そして彼女は、心を壊した。
泣いて泣いて泣き続けて、絶対に由利のせいじゃないのに、自分と待ち合わせしたせいだと自らを責めた。
幽体となった俺が、いくらなだめても抱きしめようとしても、由利には届かなかった。
――こんな彼女は見ていられない。
そう思った瞬間、俺はこの水時計前に飛ばされた。
足には鎖がついていて、水時計の根元と繋がれている。
どんなに引っ張っても、踏みつけてもそれは壊れることはなく、俺は彼女の傍についていることさえできないのだと悟った。
だけどここで待っていれば?
この街に住んでいる以上、ここを訪れないことはない。それくらい、待ち合わせ場所としては定番だ。
俺はそう思い、ここで待つことにした。
晴れの日も、雨の日も、雪の日も。
なのに、彼女は通らない。もしかしたら、もうこの街にはいないのかもしれないとさえ思うほど。