自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
(クロードさんは、私の結婚に賛成なのね。彼にとって私は、いつでも王女であって、ひとりの女性として見てくれないのはわかっているつもりよ。素っ気なくされても、それは仕方ないことなのよ……)


セシリアは泣きたい気持ちをこらえて、応接室を出る。

この大邸宅は、たくさんの尖塔を備え、内部は複雑なつくりをしている。

便宜的に東西南北の棟に分けて呼ばれていて、ここは西棟の二階である。

王族の私室は、南棟の三階に集中しており、彼女は自分の部屋に戻ろうと、廊下に足を進めた。


するとリネンを抱えるメイドが前方から歩いてきて、王女に気づくと、廊下の端に避けて会釈する。

いつもなら声をかけたり、微笑みを返すセシリアなのに、今はぼんやりとメイドの横を通りすぎ、静かに五年前のことを思い出していた。


あれは、緑が濃くなり始めた初夏の頃ーー。


十二歳の少女であったセシリアは、港近くの青空マーケットにお忍びで遊びに来ていた。

円形の広場の奥には赤レンガ倉庫が建ち並んで、その隙間に海が見え、潮風が優しく吹き抜ける。

朝のマーケットには、新鮮な野菜や果物、水揚げされたばかりの海産物が並び、買い物客が大勢、集まっていた。

テントの下の店々はどこも活気づき、作り立ての揚げ菓子や軽食を売る商売人もいて、辺りには美味しそうな香りが立ち込めている。
< 10 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop