自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
すると真後ろから、「お持ちしましょうか?」と声をかけられる。

人混みの中で振り向けば、新鮮な朝日よりも清々しい瞳をした、麗しい青年騎士がいる。

騎士団長に就任する前の、まだ一介の騎士であるクロードだ。


マーケットは安全と見なされているが、さすがに国王の娘の外出に、ひとりの護衛も付けないのは心配なので、騎士服ではなく庶民の装いをした彼も、上官の指示にて同行している。

騎士団の中で、クロードが一番、剣の腕が立つ。

彼に任せておけば安心だと、思われているようだ。


荷物持ちを申し出たクロードに、セシリアは首を横に振って断った。


「わたくし、自分で持ちたいの。せっかくマーケットに来ましたのに、買い物袋がないと、なにも買っていないみたいでしょう?」


無邪気な笑顔でそう言った彼女は、まだ恋を知らない。

クロードのことは、頼れる素敵な騎士だと思うだけで、体が触れるほどの距離にいても、胸が高鳴ることはない。

彼女の興味はすぐに買い物へと戻され、「次は魚介売り場よ。この前のように、珍しい綺麗な貝があるかもしれないわ!」と目を輝かせている。

そして、クロードに背を向けたセシリアは、好奇心に突き動かされるがまま、人波をスイスイと縫い、魚介売り場のテントへ向かってしまった。
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