自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
「お待ちください!」

人混みの中では、立派な体躯をしたクロードは素早く動けない。

小柄な少女であるセシリアを見失いそうになり、慌てて呼びかけたが、残念ながら彼女には届かないようだ。


急ぐクロードが、太った買い物客の女性にぶつかってしまい、「失礼しました」と謝った、その時……。

前方に突然の騒めきと、数人の女性の悲鳴が上がる。

彼が血相を変えたのは、その悲鳴の中に、セシリアの声が交ざっているのを、聞き取ったからであった。


魚介売り場で買い物を楽しんでいた彼女は、フードを目深に被った髭面の男に、横から体を持ち上げられていた。

どうやら買い物客の中に、王女を狙う悪しき輩が紛れていて、護衛との距離が離れた隙を見逃さず、セシリアに襲いかかったらしい。

せっかく買ったサクランボは、無残にも石畳みの地面に散らばり、逃げようとしている周囲の客に踏まれ、潰されてしまった。


「どけどけー!」と男は周囲の者たちを威嚇しながら、荒々しくセシリアを肩に担いで走り出す。

そのスピードは、かなりのもの。

赤レンガ倉庫の間に駆け込んだところを見ると、男は港へ抜けようとしており、どうやら王女を船に乗せての誘拐を企んでいるようだ。

ということは、仲間がいつでも船を出せる態勢で、待ち構えているのだろう。

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