自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
セシリアがクロードに想いを寄せていることは、他の令嬢たちは知らないことであるが、もう何年も前に、イザベルにだけはこっそりと打ち明けていた。

イザベルはきっと、憧れの役者に褒められて嬉しかったから、セシリアにも同じ喜びをお返ししようと考えたのではあるまいか。

愛しの騎士団長に善行を褒められて、頬を染める親友を想像し、手紙をしたためたのだと思われる。

純粋な善意に対して文句を言いたくはないけれど、そのせいでセシリアは今、望みとは真逆の展開に嘆くことになってしまった。


(これで、お父様の課題をクリアしたことになってしまったわ。ということは、私の結婚は破談になることはなく、このまま進んでしまうのね……)


ショックのあまり、セシリアは言葉をなくして固まっていた。

娘の落胆に気づかない国王は、その華奢な肩をポンと叩くと、満足げな声色で言う。


「来月の十日に、カナール王国の使者の二度目の来訪が予定されている。その時に、婚約式の日取りも決めるつもりだ。お前は性根が清らかで、自慢の娘に成長してくれた。胸を張って嫁ぎなさい」


父と視線を合わせていられずに、セシリアは俯いた。

「はい……」と返事をする声が、震えてしまう。


(もう結婚から逃れることはできないのね……。それでもせめて、クロードさんの前では、この話をされたくなかったわ……)
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