自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
涙がにじみ、視界がぼやけてきた。

それを隠そうとして、セシリアは退室を願い出る。


「お父様、申し訳ございませんが、これで失礼いたします。実は、今朝から少し気分が悪いんです……」


「それを早く言いなさい。医師を呼ぼう」と心配する父に、セシリアは首を横に振った。


「いいえ、大丈夫です。横になれば、すぐに治ると思います」


スカートをつまんで会釈し、そそくさと逃げるようにドアへ向かうセシリア。

その背にクロードの声がかけられる。


「セシリア様!」


反射的に立ち止まったら、続いて心配そうな彼の声が響く。


「部屋までお送りいたします」


それは彼の親切心なのであろう。

けれども今のセシリアにとっては、ナイフのように鋭く尖り、傷つけられたような痛みを胸に覚えた。


「やめて……」


絞り出すように呟いた声は、クロードまで届かなかったのか、「え?」と問い返される。

涙目でパッと振り向いたセシリアは、苦しさをぶつけるようにクロードを拒絶した。


「わたくしに優しくするのは、もうやめてください!」


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