自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
セシリアは胸に手を当て、乱れた呼吸を整える。

潤んだ瞳も手の甲で拭い、前を向くと、逃げ込んだ部屋が礼拝堂であったことに気づいた。


(心を落ち着かせるには、都合のいい場所かもしれないわね……)


王城の礼拝堂は、広々として天井は高く、荘厳な造りとなっている。

ドアから祭壇までは一直線に赤絨毯が敷かれ、その左右には布張りのベンチ椅子が二十列並んでいた。

司祭は不在で、彼女の他に人はいない。

十二人の聖人を描いた縦長のステンドグラスが壁の一面を埋め、そこから七色の光が降り注ぎ、聖堂内を神聖に彩っていた。


十字架に祈りを捧げようと、セシリアは赤絨毯を進み、祭壇に近づいていく。

しかし、赤絨毯の中ほどまで来たら、後ろの扉が勢いよく開けられた音がして、彼女は肩をビクつかせた。

肝を冷やして振り向けば、ドア口にはクロードが立っている。

日頃、鍛えている彼だから、セシリアを追いかけるくらいで少しも息を乱してはいないけれど、麗しい顔には焦りがありありと表れていた。
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