自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
庭師の邪魔をしたつもりが
◇◇◇

悪い娘になると決意をしてから、三日後。

外は清々しい青空が広がる行楽日和だが、今日のセシリアは十時から十六時半まで勉強漬けであった。

幼少期から複数人の家庭教師に学問を教わり、それは十七歳の今でも続いている。

図書室内の個室での、長い授業を終えたセシリアは、教本を手に自室に戻ってきたところだ。

豪華な机に教本を置いて、ため息をついたのは、勉強に疲れたからではなく、誰にどうやって迷惑をかければいいのかを悩んでいるせいである。


(家庭教師の先生はどうかしら……?)


『また来週に』と言って別れたばかりのラテン語学の教師は、五十代の男性である。

頭髪が薄いらしく、いかにもと言いたくなる黒々としたカツラを被っているのだが、本人はそのことを周囲に気づかれていないと思っているようだ。


(みんなの前で、サッとカツラを取り上げてしまうのは、どうかしら……?)


そう考えた直後にセシリアは、自らその企みを却下する。


(そこまでするのは気の毒よね。そういえば子供の頃、お母様に教えられたわ。薄毛の人には特に注意して接しなさいって……)


本人が自虐的に薄毛の話を出してきても、それは他人に指摘されたくないから、先に自分で言っただけである。

それに合わせて、他人がからかうようなことを言えば、傷つけたり怒らせたりするから気をつけなさい、という教えであった。

薄毛の人は、周囲が思うよりもずっと、気に病んでいるものらしい。
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