自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
おそらくは、まだ見張りの交代時間ではないと思われる。

見張り台のある尖塔は東棟にもあり、かつ今は太陽が明るく輝く夕暮れ前のため、王城に忍び込もうとする悪しき輩はいないだろう。

今なら少しくらいは、警備を怠っても大丈夫だと、兵士は考えたのではあるまいか。

その理由はもちろん、麗しき王女に声をかけられて照れたためであるのだが、セシリアは全くそのことに気づいていない。

「見張りの交代時間だったのね」と兵士の言葉を真に受けている様子に、ツルリーがクスクスと笑っていた。


「ツルリー、どうしたの? なにか面白いことがあったの?」

「いいえ、なんでもありません。さあ、これで邪魔する者はいませんね。心置きなく、騎士団長を盗み見しましょう!」

「盗み見? 人聞きの悪い言い方ね……」


セシリアは、西側に開いた窓から、ツルリーと並んで斜め下を見下ろした。

騎士を含めた兵士の大半が寝起きする宿舎がドンと構え、その隣に剣の稽古のための訓練場と、広い馬場や厩舎がある。

軍の詰所は、そこから少し離れた正門寄りの、南西側に見えた。
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