自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
「クロードさん……」

愛しい彼の名をそっと呼ぶ王女の隣では、ツルリーがキャアキャアと騒がしい。

クロードだけではなく、数人の見目好い騎士の名を挙げて興奮しており、ついには「すみません、それ貸してください!」とセシリアから望遠鏡を奪い取ってしまった。


「流れる汗と、緊張感。苦しげな顔と筋肉美に、イケメンたちの熱き戦い! た、たまらないわ……」

「ツルリー……よだれを拭いた方がいいわよ」


侍女とは違い、セシリアははしゃいだ気持ちになれずにいた。

肉眼で遠くのクロードを静かに眺めつつ、小さなため息をつく。


(片想いは苦しいわ……。クロードさんは私のような思いをすることはないのかしら? 噂を聞いたことはないけれど、好きな女性はいないのかしら?)


ふと湧いた疑問に、セシリアは悲しい気持ちになる。


(いたとしても、それは私ではないことは確かよね。一度告白して、ふられているんですもの。いくら想っても、私の恋は一方通行のままなんだわ……)


過去に一度だけ、セシリアは彼に恋心を伝えたことがあった。

それは港で悪党一味に襲われてから一年ほどが経った、十三歳の時のこと。

この大邸宅の東側には、年中色鮮やかな花々が咲き乱れる温室があり、意を決した彼女はそこにクロードを呼び出したのだ。

一年間温め続けた恋心を、『お慕いしております』と言葉にして、真っ赤な顔で打ち明けたら……。
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