自称・悪役令嬢の華麗なる王宮物語-仁義なき婚約破棄が目標です-
本当にそれができるかはわからないが、背中を押してほしいという気持ちで、セシリアは彼を見つめていた。

ドレスの胸元を握りしめる手に、自然と力が込められる。

けれどもクロードは、目を瞬かせたあとにフッと柔らかく微笑み、およそ彼女の期待には沿わない返事をする。


「国王陛下が認められたお相手でしたら、さぞや徳のある方なのでしょう。不安そうにされずとも、心配いりません。セシリア様は素晴らしい淑女でいらっしゃいます。あちらの皆様にも愛され、大切にしてもらえることと思います」


止めるどころか、結婚を肯定するようなことを言われてしまい、傷ついたセシリアは、なにも話せなくなる。

「では、私は任務がありますゆえ、これで」と、あっさりとした口調で会話を終わらせたクロードは、今度こそドアを閉めて、彼女の前から姿を消してしまった。


国軍の詰所は、広大な敷地を囲う城壁内にある、別の建物だ。

騎士を含めた兵士の多くは、城内の兵舎で寝泊まりし、日々の訓練や任務に当たる。

騎士団長の上には、総帥や国軍長官など、より階級の高い上官がいて、中間職に位置する彼は、上にも下にも気を配らねばならず、かつ、自身も直接的に任務を遂行する立場にあるため、かなり多忙である。

クロードには、王女の悩みをゆっくりと聞いてあげる余裕はない。

また、そのような間柄でないことも、重々承知しているセシリアであったが、閉められたドアを見て、彼女は胸に痛みを覚えていた。
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