初めまして、大好きな人



「波留。どうした?」


呼ばれてはっと顔を上げた。


見ると尚央が私を心配そうに見つめている。


私は慌てて笑顔を作って首を横に振った。


そうこうしているうちに店員さんが料理を運んできた。


目の前に置かれたミートスパゲティを見て、
思わず舌なめずりをする。


そういえばお腹も限界に近いほど空いている。


早く食べたいな。


スプーンとフォークを手渡されて、私は両手に持った。


「いただきます」と小さく言ってから、
フォークにスパゲティをからめとった。


口に運ぶとじゅわぁっとミートソースが広がって、
飲みこんだ後も濃くその味を残している。


一緒に運ばれてきた飲み物に口をつけて、
またフォークでからめとる。


そう言えば、私は小さい頃から
お母さんの作るスパゲティが大好きだったなぁ。


日曜の昼は決まってスパゲティだった。


スパゲティは茹でる時間が肝心なのよと言っていたっけ。


お父さんはぺペロンチーノが好きだったけれど
私は断然ミートソースが好きだった。


熱々に茹であがったスパゲティに
ソースをからめて出来上がるのが嬉しくて、
よく仕上げは手伝ったりもした。


そんな家族の思い出が急に頭の中に浮かんできて思わず涙が出た。


ぽつりと一筋こぼれた涙は、
堰を切ったように溢れ出した。


それを見て、尚央がぎょっとした顔をした。


そして私の目もとに自分の服の袖をこすりつけた。


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