初めまして、大好きな人



「おい、どうした?泣くと化粧が崩れるぞ」


「ごめっ、ちょっと思い出しちゃって……」


スプーンとフォークを置いて、
ぎゅっと拳を握り締める。


思い出すな。忘れろ。
忘れて前を向くんだ。


忘れたくないことは簡単に忘れてしまうくせに、
忘れなくちゃいけないことはどうしても忘れられない。


この矛盾がどうにもやりきれなくて、悔しくて、
惨めで、情けなくなった。


どうして私はこうなんだろう。


私はどうして、こんな病気になっちゃったんだろう。


どうして、何もかも上手くいかないんだろう。





しばらくそうして泣いていたけれど、
ようやく涙も引っ込んだ。


ぼうっとスパゲティを見て、
おもむろにスプーンとフォークを取った。


「食べられるか?残してもいいんだぞ」


「大丈夫。食べる」


なんだか申し訳なくて、私は無理やり笑ってみせた。


残ったスパゲティを全部食べきって、二人でお店を出た。


なんだか胸にぽっかりと穴が開いたように茫然と立ち尽くす。


そんな私に尚央は言った。


「少し話そうか」


手を引いて、尚央は歩きだした。


私はそれについていく。


尚央が私を連れて行った場所は、
デパートから少し離れた公園だった。


ベンチに私を座らせて、
近くの自動販売機で温かいココアを買ってくれる。


それを手にして二人で並んで座った。


尚央は自分の分のココアを一口飲むと、口を開いた。



< 52 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop