初めまして、大好きな人



思い切り泣いて、
しばらくして私は泣き止んだ。


鼻をすすって目をこする。


尚央は私の体を離して私を見つめると、
私の鼻を少しつまんだ。


「メイク、落ちちゃったな」


「うそ」


「ま、かわいいからいいけど」


尚央はおどけてそう言ってみせた。


ヒューっと口笛を吹いて尚央が笑う。


八重歯がかわいく目立っていた。


その屈託のない笑顔を見ていると、
自然と笑えてきた。


ふっと笑ってみせると、
尚央は満足げに頷いて、また私の頭を撫でた。


尚央に撫でられても、
今度は涙が出てくることはなかった。


きっと、尚央のおかげ。


悲しいけれど、さっき思い切り泣いたから
もう涙は引っ込んだみたい。


撫でられているのがくすぐったくて、嬉しくて、
私は今度は声を立てて笑った。


「どれ、立ってもう一度、
 俺にかわいいとこ見せてくれる?お姫様」


お姫様だなんてまだ恥ずかしいけれど、
私は頷いて立ち上がり、くるりと一回転してみせた。


尚央はまた口笛を吹くと「百点」と言って拍手した。


私は調子に乗ってお辞儀をしてみせた。


なんだか本当にお姫様みたい。


「さ、帰るか」


「うん」



< 55 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop