初めまして、大好きな人



「いらっしゃいませー」


カランコロンと音を立てて扉が開く。


店員さんが明るい声で声がけをする。


そちらに視線を移すと、男の人が一人で入ってきた。


うわぁ、イケメン。
こんなかっこいい人が一人でこんなところに来るんだ?
いや、お洒落な店だからいて当たり前なのかもしれない。


男の人はすらっとしていて、とても若そうな人だった。


その人の服を見て、私はこれまたピンときた。
この人はもしかして。


「榎本、尚央……」


思わず呟いていた。
それが聞こえたのか、男の人はびっくりした様子で私を見ると、
少し遠くの席に座ってパソコンを開いた。


何かを操作していたかと思うと、私をちらりと見て、
目をぱちくりさせる。


するとパソコンを閉じて私に笑いかけてきた。


やっぱり、この人が榎本尚央だ。間違いない。


男の人は店員さんに「いつもの」と頼むと
ガタっと席を立って私に近づいてきた。


「よぉ。波留」


「は、はい」


「俺のこと、覚えてる?」


「あなたは、榎本、尚央さん、ですか?」


私が恐る恐るそう聞くと、
男の人は嬉しそうに笑って、
私の向かい側に座った。


笑うと八重歯が可愛い。


「そうそう。良かった。覚えてて」


尚央はそう言って私の頭を撫でた。


ぐしゃぐしゃと乱暴に撫でるその手が妙に心地よくて、恥ずかしくなる。


俯くと、尚央は私の顔を覗き込んできた。


「覚えているって言うよりも、
 理解出来たってとこかな。
 それでも偉いよ。波留」


「え、偉い、ですか?」


「おい、敬語は禁止なはずだぞ。そこは減点だな」


えっ、点数制なの?


あははと笑う尚央を見て、少し戸惑う。


私はすぐに言い直した。


偉いのかな。たったこれだけのことで。


「偉いだろ。前向性健忘って言う病気にかかっているんだから、
 自分の知らない記憶を整理出来るっていうのはすごいことだぞ?
 中には理解しきれずに崩れる人もいるからな。
 それを考えると、ここまで来られて
 俺のことも理解出来た波留はすごいよ」




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