初めまして、大好きな人



「これがいい」


「うわっ、ゴテゴテの恋愛映画じゃん。
 これがいいのか?」


「うん。ダメかな?」


「いや、いいよ。じゃあこれを観るんだったら、
 こっちも借りていこうか」


尚央が手に取ったのはフランスの恋愛映画だった。


音楽の趣味からして、やっぱりこういうものが
好きなんだなと改めて思う。


「あ、字幕あるから大丈夫だぞ」


「うん。それも観たい」


「よし、じゃあ行くか」


尚央に連れられてレジへ向かう。


店員さんが手早く処理していって、
私たちは数分もしないうちに店を出た。


帰りの車は行きよりも早く着いて、
私たちは車を降りて歩いていた。


「ヴァポーレ」を通り過ぎて施設方面へと向かう。
その間尚央はずっと私の手を握ってくれていた。


施設の前に来た。
何気なく庭を見たけれど施設長はいなかった。


そういえば、私がこうして出かけている間は
施設長は一人なんだよね。


何をしているんだろう。
きっとご飯の準備とか掃除とか、
私たちが生活できるように頑張ってくれているんだとふと思う。


施設を通り過ぎて、どんどん歩くと、
すぐに私の家があった場所に着いた。


そこには小さな家があって、
周りと比べるととてもこじんまりしていた。


これが、鍵の家なのか。
その家を眺めてぼぅっとしていると、
尚央はポケットから鍵を取り出して手早く開けた。


「どうぞ」


尚央が先に私を中に入れてくれる。
靴を脱いで家の中に上がると、
家具の真新しい匂いがした。


シンプルなソファやベッド、
テーブルやテレビが置いてあって、
小さな冷蔵庫までもが置かれていた。


私はとりあえず床に座る。


すると尚央が私を引っ張って、
ベッドへと座らせた。


そこに座ると、ちょうどテレビが
まっすぐ見られる位置だった。


「どっちから観る?」


「尚央のやつから観たい」


「ん」


尚央は借りてきたDVDをプレイヤーに入れると、
リモコンを操作した。



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