初めまして、大好きな人



「泣いてるのか?波留」


「だって、こんな悲しい物語、
 泣かずにはいられないでしょう」


私は涙を拭いながらそう言った。


冒頭のカルロスのシーンは
このための伏線だったのかと納得する。


なんともロマンチックで悲しい物語なんだろうと、
胸に沁みていくのが分かる。


私は鼻をすすりながら映画を観続けた。


エンドロールが始まった時、
私の視界が突然ぐらりと揺れた。


視界いっぱいに天井が映る。
何事かと思って起き上がろうとした時、尚央の顔が映った。


「な、尚央?どうしたの?」


尚央は真剣な表情で私を見下ろしていた。


名前を呼んでも返事をしない尚央は、
私をじっと見つめるばかり。


居た堪れなくなって視線を逸らした。


「波留は、いなくなるなよ」


「えっ?」


「俺の前からいなくなったりするなよ」


「う、うん」







「波留。好きだ」








「えっ?」


突然の言葉に頭が追いつかない。


日記にも前に好きだって言われたって
書いてあったけど、本当だったんだ。


でも、その好きはどういう意味?
尚央の目を見ると、尚央もまっすぐ私を見つめてきた。


「お前は?俺のこと、好きか?」


「えっ、と……尚央?」


「好きか?」


どうして、悲しそうな表情をするの?
その好きは、一体どういう「好き」?


私はどう答えたらいい?
どう答えたら正解なの?


戸惑って何も言えないでいると、
尚央の顔がぐんと近づいてきて、
私はびっくりして目をぎゅっと閉じた。


微かにかかる息。
ドクドクと高鳴る心臓の音。


全ての神経が研ぎ澄まされているようだった。



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