初めまして、大好きな人



「波留。好きだ」


もう一度そう言われて、
唇に温かい感触が伝わった。


それは一瞬のようでいて、
長い間そうしていたようにも思える。


ポタっと何か熱いものが頬に伝った時、
私はゆっくりと目を開けた。


尚央を見ると、
尚央は涙を流して泣いていた。


「尚央?」


「だっせぇ、俺。何泣いてんだ。
 ごめんな、波留。急にキスなんかして」


これは、キスだったのか。


初めてのことで混乱している頭で理解する。


キス。
ドラマや映画、漫画でよく目にしてきた。


これが、憧れのキスっていうものなのか。


突然のことでびっくりする。


いつかしたいとは思っていたけれど、
こんなに突然やってくるなんて。


どうして尚央は私にキスなんかしたの?
それってつまり、「好き」ってことだよね?


「ごめん。今日はもう帰ろう」


「尚央、私、嬉しかったよ」


分からないけれど、口が勝手に動いた。
何故か、そう伝えたくなった。


これじゃあまるで私、尚央のことが……。


「ありがとう、波留。もう帰ろう」


尚央は大人の笑みを見せて、
私をそっと起こした。


テレビを消して立ち上がる。


尚央を見ると、髪の毛をぐしゃっと
かきあげてそっぽを向いていた。


私も立ち上がろうとして、
足が震えていることに気が付いた。


うまく立てなくてよろける。


心臓がバクバクしていた。
初めてのキスだった。


尚央との距離が急激に近づいた気がして、
なんだかびっくりして、ちょっとだけ怖かった。


あんなふうに男の人から好きだと言われたことも、
あんな大人のキスをされたこともなかったから、
自分が大人の階段を上ったようで、
なんだかそれがいけないことのようにも思えた。


まだ十七歳なのに……
もう十七歳?もうどっちか分からない。


なんとか立ち上がって尚央のそばに立つ。
尚央はもうなんでもないような顔をして私を見ていた。


「さ、帰ろう」


「うん」


さっきのはなんだったの?
私の気にし過ぎなのかな。


尚央にとってはなんでもない普通のことなのかな。


そう思うとなんだかちょっと悲しくなった。


私にとっては、一大事なのに……。


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