略奪的なその恋に、本気の愛を見つけた
無我夢中で逃げたら、会社まで戻ってきていた。

オフィスのあるビルの自動ドアを抜けたところで、遼太郎くんとバッタリ出会う。
そういえば、今日は残業するって言ってたな。

「あれ?萌、どうしたの?」

「えっと、…忘れ物を取りに来た。」

とっさに嘘が口をついた。
だって遼太郎くんに迷惑をかけたくなくて。
正広に会っただなんて言えなくて。

横を駆け抜けようとして、腕を捕まれる。

「待って。俺に言いたいことあるよね?」

「…遼太郎くん。」

「目が訴えてるって言ったでしょ。」

私の瞳の奥を探るように見つめてくる。

ああ、何でこの人は。
こんなにも優しいの。
ちゃんと見ててくれる、気に掛けてくれる。

「迷惑かけたくない。」

「他人に迷惑をかけるのはよくないけど、恋人には迷惑をかければいいんだよ。」

そんな、恋人だから迷惑をかければいいなんて、甘えすぎでしょ。
なんでそんなに私を甘やかすのよ。

「いいから、話してみて。」

遼太郎くんには何でもお見通しみたい。
嘘がつけない。
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