恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
ふと見た一樹と目が合い、どうしたらいいのかわからなくなる。
一樹の瞳に戸惑いの色が滲んでいるのが、見てとれたからだろう。
久城の言葉に後押しされたのか、梓は自分の中にある想いに気づかされた。それは、一樹の偽りの婚約者になったときにまかれた種が育ったものだ。
一樹の優しさという水で芽を出し、ぐんぐん育っている。大きく葉を広げ、それが梓の心をそっと包んでいるようだった。
強引で周りを顧みない。自分のペースにとことん巻き込み、嵐のごとくさらっていく。
そんな一樹の優しさや気取らない一面を見るたびに、梓の中で想いが少しずつ積み重なっていった。
(……私、一樹さんのことが好き)
自覚しそうになると目を逸らし、さんざん否定し続けてきたが、もう誤魔化しようもなかった。
それと同時に、ふたりの関係が偽りのものだという事実にぶち当たる。
しかも相手は、大病院の御曹司。どう転がったって、この想いは成就しない。
恋心に気づいた途端、そこに悲しい現実があった。