恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

陽子とふたりで多香子の顔をじっと見つめていると、今度は瞼がかすかに動く。


「おばあちゃん」


梓の声に反応したか、ゆっくりと目が開かれていく。


「おばあちゃん!」


もっと大きい声で呼びかけると、多香子はようやくしっかりと目を開けた。


「梓に陽子さん? ふたりともいったいどうしたの」


多香子のその第一声を聞き、陽子と梓は顔を見合わせて笑った。


「どうしたのじゃないでしょう? 意識を失ったって病院から連絡をもらって、びっくりして駆けつけたんだから」
「そうよ、お母さん」
「やだねぇ。ちょっと眠っていただけだよ。そんなに簡単にあの世になんか行きませんよ。おじいさんが迎えに来たって、まだ行かないって駄々をこねて追い返すんだから」


そう言って多香子が微笑む。

< 113 / 301 >

この作品をシェア

pagetop