恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「祖母に私の恋人として会っていただけないでしょうか? もちろん、いつも通りの演技でいいんです。三島さんの前でするような偽りのものでかまわないので」
自分で〝偽り〟と言っておきながら、胸がチクンと痛む。
一樹に嘘をつかせる心苦しさもあるが、今は多香子の回復を優先したかった。
「祖母は私に恋人ができるのをずっと楽しみにしていて。なので、祖母を元気づけるためと言いますか……」
『わかった。そうしよう』
一樹が即答する。
「ありがとうございます……!」
梓はひとまず胸を撫で下ろした。
多香子がなによりも願っていたのは、梓に恋人ができること。その人に会わせて元気づけ、カテーテル手術を説得したいと考えたのだ。
『早い方がいいな。今日これから行こうか』
「……いいんですか?」
『いいも悪いもない。すぐに向かうから準備しておくように』
言うだけ言って切られた電話。
梓は思い出したように、すぐに身支度を始めた。