恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

◇◇◇

多香子の病室のドアの前で、何度となく深呼吸を繰り返す。
嘘とはいえ、恋人として一樹を多香子に紹介するのだから、緊張せずにはいられない。

窓際のカーテンを開け、「おばあちゃん」と梓が声をかけると、多香子は「おや」と上体を起こした。


「起きて大丈夫なの?」


介助しに梓がベッドへすかさず近づく。


「昨日は悪かったね、心配をかけて。昨日の今日だからこなくてもよかったのに」
「昨日の今日だから来たんじゃない」


元気そうな顔を見なければ、おちおち家でのんびりもしていられない。


「実は今日は、おばあちゃんに会わせたい人がいるの」
「会わせたい人? いったい誰だろうね」


ニコニコしながら待つ多香子の前に、カーテンに隠れていた一樹が姿を現す。
その瞬間、多香子は口をぽかんと開け、目を激しく瞬かせた。まるで幽霊でも見たかのような驚きようだ。

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