恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

◇◇◇

病院の帰り道、一樹に乗せてもらった車の中で、梓は「本当にありがとうございました」と頭を下げた。

多香子は梓に恋人を紹介され、さらに元気をチャージ。将来のふたりの結婚式のためにも入院を長引かせるわけにはいかないと、アブレーション処置を受けると約束してくれたのだ。

話が結婚に飛躍したときにはヒヤヒヤしたけれど、一樹は持ち前の処世術により笑顔でそれらしく受け答えをしてくれた。
まるで本当に結婚が控えているかのように話すものだから、梓の方が戸惑い、ぎこちない会話になったくらいだ。

帰り際に、「また顔を見せてちょうだいね」と一樹にお願いし、多香子は上機嫌で見送ってくれた。

梓は、くれぐれも母の陽子にはまだ内緒にしておいてほしいとだけこっそりお願いした。いつ別れがくるかわからない相手を恋人として紹介するのは気が引けたのだ。


「一樹さんって医療に詳しいんですね」
「え? どうして?」
「アブレーションとか。あ、お父様がお医者様だから、そういった話をされたりするんですね、きっと」

ひとりで理由を見つけて梓が一樹を見ると、意味深な笑みを浮かべていた。見当違いだと指摘された気がする。

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